人が技術や効率を超えて求めるもの
根強い人気のネオン管
電気を使った照明の歴史が始まって150年あまり、様々な光源が登場し、それは新しい技術によって淘汰されていくこともありました。長く使われてきた白熱電球は、この10年ほどのうちにLED光源が主役の座を奪い取ってしまいました。しかし、今でも人々に愛され、根強く巷に居続けている古い光源があります。それが、ネオン管です。今でも熱を加えて曲げたガラス管で文字やラインイラストを表現し看板やアートに使われています。
ネオン管の製造所は徐々に減っている中でネオン管を模したLED器具も登場してきていますが、関わらずネオン管がなお好まれる理由はどこにあるのでしょうか? イロイロと考えてみたのですが、それは人々の心を “キュン”とさせる何かがあるからだと思うのです。
キュンとはいったい何なのか?
数年前に「キュンです」というフレーズが流行ったり、今でも「エモい」という感覚が重要視されるように、最近はそういった感情に訴えるような温かみが製品にも求められているように感じます。
例えば数年前にイタリアの自動車メーカー・フィアットがコンパクトカーをEV化した際に、走行音に生身の人の声の録音を使ったというエピソードを耳にしました。EVカーは静かすぎるので車両接近警報のために音を出す仕様になっているのですが、フィアットはその走行音で他社と差別化するために音楽制作会社に依頼して非常にユニークな音作りにこだわりました。その結果編み出されたのが、ボイスアーティストが発する「ブーーン」という音を使うというものだったのです。
電気自動車やハイブリッドカーが発するシュウィーーンという嫌なモーター音に比べれば、人が声で奏でる懐かしい内燃機関の音は、まさに“キュン”とする響きだったのでしょう。
照明におけるキュン要素
前述のネオン管はガスバーナーでカラス管を熱することに始まる手作りの工程から生み出されます。そのため量産が出来なかったり、職人さんの技量によることが大きいものでした。
職人の技術を引き継ぐ後継者不足にはじまり、LEDの驚異的な技術進歩により、徐々にLEDサイン看板にとってかわられてきました。しかし、数少なくなった今でもなお使われているのは、そこから発せられるまぶしさのない人肌のような優しい光を感じるからなのでしょう!
また透明感のある発光色にも大きな魅力があります。カフェの入り口や部屋の片隅にさりげなく設置すれば、懐かしい時代にタイムスリップすることさえできるのです。
照明を使い分ける際の指針として
私たちが効率だけを優先し、経済合理性にかなう製品だけに取り囲まれるようになったら、人間の持つキュン感覚からどんどん遠ざかって行ってしまう気がします。
もちろん、道路や工場、スポーツ施設などの照明にはその目的を直行性高く成し遂げることが重要なので、いちいちキュンキュンしていては困ってしまいますね。しかし、人が日々暮らす所にはたくさんのキュンがあった方が豊かだし、思わず笑みがこぼれてしまいます。
技術の発展により照明で容易に明るさが得られるようになった今日、照明の価値は照度や効率だけではない、キュンがいくつ見つけられるのか?といった評価基準も加わっていかなければなりますまい・・・と思う夏の日の午後でした。