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執筆者の写真東海林弘靖 / Hiroyasu Shoji

息吹を感じるライティング


夜闇にファサードが光るキラリナ京王吉祥寺
photo by LIGHTDESIGN INC.

照明は”生きている証し”


新しく生まれ変わった街のシンボル


東京の京王井の頭線吉祥寺駅ビルが約4年に渡る長い工事を終え、「キラリナ京王吉祥寺」として先月23日にグランドオープンいたしました。駅舎としての機能を保持しながらの工事でしたので、大掛かりな作業は終電後、始発まで・・・の作業となりそれ故かなりの長い工期となったのです。地下2階地上9階建ての同施設には30代女性をターゲットにしたファッションや雑貨のお店やフードフロアなど、吉祥寺初出店の店舗も多数揃え、オープンからたくさんの人たちで賑わっているようです。今回は照明デザインを担当させて頂いたこの施設の明かりについてお話したいと思います。

 

時間によって変化するコンコースの光天井


キラリナ京王吉祥寺のコンコースの光天井
photo by LIGHTDESIGN INC.

まず、シンボルとしての建物外観の照明を語る前に、駅の改札に向かうコンコースの照明のお話をさせていただきます。コンコースは、写真のような天井の高い空間で、一層上のフロアにある改札へは大階段とエスカレータで往来します。ここは、鉄道を利用する人々皆が通過する空間ですが、ここで照明は何が求められているのかを考えました。


朝は「おはようございます。」そして、昼には「こんにちは、いい天気ですね!」さらに夜には「こんばんは、今日も一日おつかれ様でした」・・・照明が言葉をささやくことはありませんが、光の様子によってそのような雰囲気が創れないか?と考えたのです。そして、天井には長方形のタイル状にデザインされた光天井照明が一面に配され、朝から夜までのあいだで、異なった光に変化する仕組みとなりました。


朝の通勤通学ラッシュの時間帯はパキッと目が覚めるような朝らしい光をイメージし、4000ケルビンの色温度、照度も1500ルクス、朝日のような光が照らされます。これが昼頃には5000ケルビンまで色温度が上昇しますが、逆に照度は少し下げられます。いわば晴天の日差しを避けた木陰のイメージといった感じです。夕方になると今度は帰宅する人たちを迎える“おかえりなさいモード”として、色温度が3000ケルビンの温かな光に変わり、さらに夜の時間帯には照度も少し下がります。


また、写真を見ると、パネルのところどころは赤やピンク、緑などのカラー照明にも変わるようになっており、アニメーションのように流れるような動きを見せてくれます。こちらは二十四節気をイメージに季節を反映した色合いで展開され、休日の日曜日と週半ばの水曜日の定期時間に運用されることになっています。駅を利用する人たちを、毎日何時でも均一な何も変わらない光が迎えるのではなく、季節や時間に応じて気分を変えてくれる空間となっているのです。

 

春夏・秋冬そして3つの夜

こうした照明の工夫は外観にも施されています。大きくは春夏と秋冬バージョンの2つのシーズンで色合いを設定しており、春夏である現在は透明感ある白青の爽やかな光、秋冬になると温かみのあるやや電球色に近いシャンパンゴールドのような光に変わります。また、さらには夜の時間帯を「暮」、「宵」、「真夜」と3つに分けて、それぞれに表情が少し異なるようにデザインしています。


「暮」は、日没から21時の時間帯で、建物全体がゆっくりと呼吸するようなスピードで明暗を繰り返します。「宵」は21時から24時の時間帯で、光の呼吸の明滅が下のフロアから上のフロアまでを巡るようなグラデーションの動きへと変わります。その後の「真夜」、深夜から日の出までの時間帯は建物全体ではなく、一フロアのみが呼吸する演出となります。たとえば、3階フロアの光が呼吸したと思ったら、今度は7階フロアが呼吸する・・・といった具合に変化するのです。


この光の呼吸は、本当にゆっくりなので、急ぎ足で駅に向かっている人にはわからないかもしれません。しかしある時、ふと、駅を眺めていたら変化していたと気付くような控えめな動きとなっています。このキラリナの外観照明は、建物を目立たせることよりも、駅全体が賑わって、そこに集まった人々の命のリズムのようなものを街に伝えたい・・・そんな思いでデザインがすすめられたのです。 以前、パプアニューギニアの電気の通っていない村を取材したとき、照明とは何か?という私の問いに、「照明は命のシンボル」と答えが返ってきました。電気がない代わりに椰子の実からつくるオイルを灯す照明の村、その長老からそんな言葉が聞けたというのが、涙が出るほど嬉しかった体験がありました。折しも東日本大震災の数か月後の出来事でした。


「利便性を求めてエネルギーを灯す照明」ではなく、今日もそこに命があることを確認するような役割を持つのが本来の照明ではないのか・・・? 今一度灯りの定義を問い直せば、自然に感謝して与えられたエネルギーにメッセージをのせて灯すのが照明、そして照明が見る人の心に響くか否かが大切なのだ。そう考えるようになったのです。


この吉祥寺駅のプロジェクトはパプアニューギニアの取材よりもずーっと以前に開始したものでしたが、この体験を受けて今回の光のデザインに至ったのでした。この照明が街の人たちの心にふと響くような光、ときには勇気づけられる光、そんな存在として吉祥寺のシンボルとなってくれたらと願っています。




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